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2014/11/18

新日本プロレス闘魂史(#19)

録画した日〔2013/3/31:サムライTV〕

1990年に行われた元横綱双羽黒・北尾光司の4試合。
大相撲廃業から2年、スポーツ冒険家活動を経ての新日マット参戦でした。
歴史的神興業「2.10スーパーファイトin闘強導夢」のなんとセミファイナルに超抜擢された超闘王。
ド迫力頂上対決「ハンセンvsベイダー」の余韻に浸る超満員63,900人のプロレスファンは、ギンギラに変身した元横綱をユルい失笑で迎え入れます。
6万の失笑にも決してブレない(=空気が読めない)北尾は、ずっと憧れてた超人・ホーガンのタンクトップ破り芸を堂々盗用。
しかし布の切れ目が多すぎたのか、本家のビリビリビリ~という間を作ることができず、お笑いウルトラクイズの井手らっきょの様にスパッと丸裸になってしまいました…。
そんな規格外の新弟子の相手役に駆り出されたのは入れ墨獣・クラッシャーバンバンビガロ。
ニセ雲龍型パフォーマンスで観衆のヒートを買おうとしたものの、北尾のあまりのナチュラルヒールっぷりからあっという間に正義の味方へ仕立て上げられてしまいます。
ドームの空気と新日の方針を天秤に掛け優しいプロレスを繰り広げるビガロ。この日に限っては持ち前の上手さ器用さがモヤモヤを生み出してしまいました。
ビガロはこれぽっちも悪くないし結果論でもあるんですが、輪島デビュー戦のTJシンみたいな無軌道ヒールをぶつけていれば北尾にとって良い方向にオチが付いたかもしれません。
最後はギロチンドロップ(ロープワークやり直しVer)で初陣を飾った北尾。
今見れば新人としてそんなに酷い動きとも思えないのですが、なにせこの日は伝説の2.10。
テンション上がりまくりのお客さんからは、失笑/ブーイングを超える最上級のバッシング「帰れコール」が浴びせられました。

4.27東京ベイNKホール大会では、皇帝戦士・ビッグバンベイダーとタッグで激突。
デビューから2ヶ月半経っても北尾のイメージは良化傾向なし(むしろ悪化)。誰もが抱く「ベイダーなら…」の期待感でNKは殺伐とした空気に包まれます。
北尾のこの日の相方は現場監督・長州力(ベイダー相方はビガロ)。
後に巡業バスで「帰れ」「じゃあ帰る」問答を勃発させる2人ですが、この時点では表立っての問題はなかった模様。
ただ後付け目線で見ると、なんとなく長州がよそよそしいような気もします。
ダブルの猛爆フライングボディソーセージで圧殺された北尾。
いくら横綱という格があるにしてもまだまだデビュー2ヶ月半のグリーンボーイ。ベイダーもビガロも「かわいがり」が過ぎるんではないでしょうか。

誰が仕向けてるのか、北尾へのかわいがりマッチメイクはこの後もエスカレート。
圧殺劇から1か月後の5.24NKホールには、なんと殺人医師・スティーブウイリアムスまでが参戦してきます。
ベイダー&ビガロ&ウイリアムスの3ショットは恐怖の一語。素人は絶対に直視してはいけません。
馬場-坂口ライン効果で全日をメインに活動していたこの頃のウイリアムス。
古巣に久々に帰ってきたら目の前にこの上なく旨そうなご馳走が…。
のっけからアドレナリン暴発の滾り捲り状態、こんな時の殺人医師は本当に手が付けられません。
そんな荒ぶる外人3強にも全く怖気付かないのが北尾の良いところ。
それどころか「なんでタッチしねぇんだ」とマサさんに毒付くゆとり系の凄玉っぷりまで披露します。
相方(橋本/マサ)はともかく、ボコられることでお客さんとウイリアムス達を大満足させた北尾。
実は素晴らしいジョバーだったんじゃないかと思えてきました。

3強相手の4日後、5.28大阪府立体育館ではついに皇帝戦士・ベイダーとシングルマッチが実現。
府立といえば大相撲春場所の舞台。
凱旋相撲が最強外人・ベイダーとの取組だなんて、新日もなかなか粋なはからいをするもんです。
歴戦のかわいがりで痛めた脇腹を攻撃され、最後は破壊兵器・ビッグバンクラッシュで圧殺されてしまった北尾。
この試合ではロープを掴み損ねて場外に急転落するという、一歩間違えば大怪我のミスもありました。
そういった側面も含めてデビューして3ヶ月ちょっとのまだまだ若造。
当時はこれっぽっちも思いませんでしたが、かなり頑張ってる部類だったんじゃないでしょうか。

25年ぶりに北尾を見ての感想はとにかく「もったいない」。
高さ分厚さでベイダーとタメを張る抜群の素材をモノにできなかったのは、誰が何と言おうと日本プロレス界の損失でしょう。
新日期だけを考えるとスポーツエリート・長州政権下だったのも不幸の遠因か。
これが無責任の永久機関・猪木の直下だったら…。
良い意味でとんでもなく恐ろしい妄想が膨らみます。
SWS期も含め、数多いトラブルで悪いのはすべて北尾本人。この人に限っては時代が悪かったとかいうエクスキューズもないでしょう。
ただ私としては、Uインター・高田延彦戦(1992.10.23武道館)で日本プロレス史上最高のジョバーとなった事をもって、プロレス的には全部チャラでいいかなと思っています。